今週の儲かる繁盛店の視点 第412話:「原材料費が上がるのに なぜ、価格競争の泥船に乗ろうとするのか?」
「先生、人時については、基本から教わらないとダメなことが、ようやくわかりました。」 先日セミナーにご参加になられた社長さんからのご相談です。
自粛の二年前からみると、売上水準は戻りつつあります。しかし、以前の状態に戻ったところで、低収益のままでは意味がありません。そこで、作業割当表を痛感しやろうとしたがそれが上手くいかず、悩まれた末、社長ご自身がセミナーにご参加になられそうです。
――――社長ご自身が人時と向き合っていこうとされたことで、その難しさをご理解いただけたのだと思います。がんばっていきましょう。と背中を押させていただきました。
人時とは 一人当たり時間作業量を表すものです。人時売上高はそれを使い、売上高÷人時で算出する、企業収益力を表す指標です。
このように、言葉で言うのは簡単ですが、実際やるとなると、そう簡単なものではありません。
確かに、人時売上は、奥行が深く、その意味を理解するだけでも時間がかかります。
しかし使いこなすことが出来れば、あらゆる環境にもビクともしない、強い企業を創り出すことができるものです。
そのため、社長ご自身がその仕組みを積極的に理解しやってきたい。という想いが極めて重要になってきます。
お気づきの方もいると思いますが、この人時売上の式は割り算で成り立っているということです。つまり、売上、人時のどちらかがゼロであれば、出てくる結果もゼロだということです。
ところが、多くの人が、分子の売上さえ上げていけばいいのでは?簡単と考え、難しそうな人時を避け、売場づくり、接客、販促といった目に見えるやり方でやろうとします。
人は見えないことに挑戦するより、船のカタチにみえる泥で出来た船にのるほうが安全と考えてしまうものです。
しかし、それで海に出ればどうなるか明らかであり、本当に笑えない話を多くの経営者の方からお聞きしてきました。
これまでは、人口増で売上は支えられ、モノの価格も安かったことから、人件費が多少膨らんだところで、なんとかなりました。
過去30年間も続いたモノの価格が上がらないデフレ経済の中という背景があったからです。
これからは、一過性の売上をとるために、コストをかけるようなやり方を無意識にやり続ければ、収益悪化の底なし沼状態から抜け出せなくなる、ということです。
大手チェーンの中には、プライベートブランドの価格据え置きを大々的に謳っているとこがあります。
売上の70%を占める商品調達コストが1割上がれば売上対比7%のコストが増えることになり、もし、現状価格を維持するとなれば、その分、販管費を下げないと、年間利益が吹き飛ぶことになります。
まして、今の時代、これを 仕入先に強要すれば大きな社会問題になることは、言うまでもありません。
商品価格の値下げを謳おうとするからには、それ以外の人件費等で見直さなくてはならないわけです。
しかし、人件費は個人任せの部分が多く不透明な状態になっているため、一刻も早くそこに、手をつけなくてはならない状況が目の前に迫っているということです。
そう言う意味では、原材料の値上は生産者やサプライヤーの問題ではなく、むしろ利益率の低い小売りチェーンにとっての大きな課題であり、早急にインフレ対策をたてなければ、大変厳しい状況が待ち受けているということです。
一方で、人時について、先行して取り組まれている企業では、実際それを日々の売上と照らし合わせてみていくことで、絶えず修正をしていく仕組みができあがっています。
細かいことで言えば、売上の高い日でも、低い日でも人時数は同じであることに疑問を呈し、その日の作業指示内容の全面的見直しを行なうように経営による営業指導がなされていくことで、日々結果が変わっていきます。
また、売上の低い日の方が高い日より人時を使っていたりすることもある時は、人時配分の基準を再設定し、契約人時変更を速やかに実施することで、理想に近い店舗運営スタイルを作り上げています。
もちろん、これがベストということではなく、経営目標があって、人時売上予算を立てて、店舗コンディションを整え新規顧客を獲得していく事で、成長という名の安定をはじめて得ることができるわけです。
こういった視点で人時を考えていくと、本当に必要な業務は何か?それは、どういう一日の流れで組まれるのが良いのか?その標準形を先ず作るコトが必要なことが見えてきます。
前出の企業はこの課題に気づき、手を打たなくてはならなかったわけですが、歴史ある企業であったことから好立地に恵まれ、半ば放っておいても売れるドル箱店舗の割合が多く、中々それに踏み出すことが出来ませんでした。
しかし、人口増とデフレの前提が崩れれば、いままでのように、安定的に展開することが難しくなります。
社長自身セミナーに参加される前は、枕を高くして寝ることができなかったと述懐されています。
人口増の後押しがなくなり、インフレでモノの価格が上がり、高コストを見過ごせば、自らの力で利益コントロールすることが出来なくなるのは時間の問題ということです。
さあ、貴社では、インフレが加速する中、まだ、高コスト手法で売上アップを目指しますか?それとも、インフレを味方につけ、安定して成長できる仕組みづくりに着手していきますか?