今週の儲かる繁盛店の視点 第582話:「なぜ、介護業界で人時生産性が重要なのか? 人時生産性を上げていく手法を知らない企業の末路は?」

「先生 我々の介護業界では需要は増えてるんですが、恒常的な人手不足なんです」老人介護施設を複数拠点で経営している社長からのご相談です。
お話をお聞きすると「時間内に業務が終わらず、長時間労働になることが多い職場環境なために人が集まらない。また、介護報酬が決まっているため、高い時給で採用することができず人を集めるのが難しい。
大手のような見守りセンサーのようなものを欲しいと思っても、まあまあのお金がかり、行政からの補助金も半分ぐらいのため簡単に手が出せない」とこのと。
おっしゃるとおり、いづれは大型投資をできるようにしていくにしても、そのまえに、どうやって人時生産性を上げ、それをどうやって使えるお金にすればいいのかわからないのは切実な問題です。
ーーーー恐れ入りますが、先月の御社の人時生産性がどのくらいか教えていただけますか? とお聞きすると
「え?」と言葉に詰まります。
介護業界において生産性改善が重要ということはよくおききする話です。
しかしながら、具体的な改善策の一つとして出てくるのは、前出の見守りセンサーであったり、介護ロボットぐらいで、それ以外にどういうものがあって改善できるのか?という話はほとんど出てきません。
前職時代から20年以上、人時生産性改善をやり続けてきたプロとして言えるのは、DX化のようなものは手法のひとつにすぎない。ということです。「導入したものの使われない」ならまだいい方で、その「更新やメンテナンスにお金がかかる」ことが大問題なっているからです。
そもそも人時生産性とは何なのか?
人時生産性とは、粗利を人時数で割ったもので、一人当たり時間粗利高を示します。欧米諸国では当たり前の数値で、企業の営業収益力を示すものです。
しかし、現実的に毎日の粗利高は確定して出てこないため、一般的には売上高を人時数で割った人時売上高を使います。
この人時売上高を使い、人件費をコントロールして効率的に売上をあげていく。ということです。
そうは言っても、老人介護施設などは、日々売上が発生するわけではありません。
なので、みなし売上をもとにした人時売上で、入居率アップにつながることに人件費が使われているかどうかをみていくということです。
この人時売上高を上げていくことができれば、ぜい肉をそぎ落とした筋肉質に変えていくことが出来るということです。
注意しなければならないのは、成長市場は売上見込めても、競合の参入も多く、販促費や人件費が過大に投じられ高コストになる危険性があるということです。
かつて 人口増に支えられた国内スーパーやGMSがいい例で、売上至上主義に傾斜した結果、高コストによって弱体化し、今やM&Aの標的業種のひとつになってしまっています。
しかし、中には、ここ数年で取り組み利益率を大きく伸ばしている企業もあります。その多くが、人時生産性の改善のとりくみによるもので、毎年増収増益を続けています。
特筆すべきことは、売上げアップだけではなく、年次有給の取得率のアップや夏冬の連続休暇の取得といった実質賃金アップが次々実施され、人が減っても気兼ねなく休みがとれる体制が定着しいるという点です。
そう言う意味から考えますと、そもそも、本当に人は不足しているのか?という点から見直していかなくてはならないということです。
――――実際に、現場の一人一人がやってる仕事について調査してみたことはありますか?とお聞きすると
「えっ?」と言葉に詰まります。
決して従業員の方が、手を抜いているのをチェックするということではありません。
人は自分が体験したり感じたことを、「省略化」「一般化」「歪曲化」して伝えようとする生き物だからです。なので、客観的に、現場の人はどういった業務で人が不足しているのか?確認してみるということです。
実際この「人手不足問題」は、2017年ごろ、スーパー大手各社の社長の中でも問題になっていました。誰もが口をそろえて「人手不足」を唱えていたのです。実際、小売チェーン業界であった話です。
理由は簡単で、団塊世代の社員が定年退職になっていくなかで、それを穴埋めする人を集めることができなかったからです。
ところが、その年2018年に拙著「儲かる個店力最大化のすすめ方」で本当に必要なとこに人が足りていないだけで、店トータルでは人は過剰になっている実態ついて書いたところ。
なぜか、各社人手不足について、それ以来一言も言わなくなったのです。
売上げアップに従来通りの人員をかけるのではなく、この売上をとるにはどのくらいの人員が必要なのか?つまり、人時売上が重要だということを言い始めたのです。
店舗でかかる本当の時間を経営として掌握しないまま、社員から「人がいない」「人が足りない」といった言葉を鵜呑みにして欠員補充をくりかえした結果、赤字に体質になっていったとことに多くの経営者が気づかれた、ということです。
しかし、時すでに遅しで、ここ数年の賃上げの中、そういったやりかたを続けた企業と、実態を正しく掴んだ企業の店舗では何十倍も差が開くことになってしまっているということです。
ビジネスで正しく人時生産性を出すことが出来ない会社の業績がよくなることはありません。
この目標を達成させていくための施策をたて実行しなければ、多店舗展開、多事業所展開をすればするほど、業績が悪化に歯止めがかからなくなってしまうからです。
さあ、貴社ではまだ、人時生産性を把握しないまま、業績悪化の道を進みますか?
それとも、今すぐ人時生産性に着手し、光り輝く未来を手にしますか?
著:伊藤稔