成長企業が行っていることを分かりやすく解説

Amazonから学ぶ「減益から増益へ転換させる仕組みづくり」

2019年6月19日

伊藤 稔(株)レイブンコンサルティング代表取締役

Amazonを活用し、協業することの意味

 インターネットだけで商品を売り始めたAmazonは、今やAmazon GoやAmazon Booksに着手し、ホールフーズ・マーケットの買収とリアル店舗事業に少しずつ入り込んでいます。日本でも地域限定で、2時間以内に商品を届けるAmazon Prime Nowで、日本橋三越本店、マツモトキヨシ、ココカラファインとの協業が行われています。そして、今回はライフコーポレーションとの協業もリリースされ、話題になっています。

 Amazonはネット通販で利益が出る体制が確立されたことから、百貨店、ドラッグストア、スーパーマーケットの品揃えを加え、新たな顧客開拓を着手し始めたといえます。協業している各社にとっては、Amazonシステムに乗ることで売上げは増加し、認知度を高めています。

 しかし、利益に結び付いているかどうかといえば、なかなか難しいということです。

 そういう意味ではAmazonとの協業や利用目的は、そのノウハウや、いかにしてAmazonが収益を上げているか? その構造を知るための先行投資といえます。

 大事なことは今後高まる販売管理費率(販管費率)の引き下げであり、それを推進しているAmazonのオペレーション体制を学び、そこで見聞きしたことを自社に生かすことです。

 協業している3社の2019年3月期実績を見ると、本業のもうけを示す営業利益ベースではマツモトキヨシホールディングス(HD)は増収増益、ココカラファインは増収減益、三越伊勢丹HDは減収増益です。ドラッグストア2社の売上高対比の販管費率はマツモトキヨシHDが+0.64%P、ココカラファインは+0.56%P。三越伊勢丹HDは頑張って-0.63%Pと引き下げているものの、26.7%という高いコスト構造にあることには変わりありません。

 今回参入するライフコーポレーションはどうかといえば、2019年2月期実績は増収増益で、販管費率は30.0%、前年比+0.76%P。改めてみると三越伊勢丹HDを上回る高コスト構造です。

 ライフコーポレーションも自社ネットスーパー事業を頑張って取り組んでいる企業の1つですが、ネットスーパー単独での利益確保は困難です。何といっても「いったん商品を売場に並べ、そこから商品をピックアップして配送する」といった2重コスト構造のネットスーパーで利益を出すのは難しいのです。仕組みが確立されるまでは、コストを吸収する別策を講じなければ、維持すること自体、難しくなります。

 各企業にお考えがあるので、それをどうこう言うつもりはありませんが、ここで学ぶべきは、「ここ1~2年のうちに販管費引き下げの仕組みづくりを稼働させ、何らかの策を講じなくては?と真剣に考える時期である」ということです。

ネット通販は万能ではない

 欲しい時に注文して、届けてくれるネットスーパーの宅配機能は便利ですが、そこには「配送料もかかる上、宅配を待っていなくてはいけない」というデメリットもあるということです。

 そこに目をつけたのが、ジェフ・ベゾス氏が常に注視するウォルマート。店に行く前にスマートフォンで事前注文、決済をすることで、店内に設置したピックアップタワーやロッカーに商品を集めてセットしておいてくれます。レジ待ちや自宅での宅配便の待ち時間が節約できることはアメリカで好評で、これは全米の店舗への導入が進んでいます。

 店舗でわざわざ商品を買い回らなくても、ちょっと立ち寄ってすぐ買物を済ませられる。「ネットで注文・支払い、リアル店舗で受け取る」というプラットフォームをつくることで、ウォルマートは店舗への来店促進化とローコスト化を同時に解決させたといえます。ウォルマートとしてのアプリ開発やピックアップタワーなどの投資と商品をピックアップする経費はかかりますが、配達コストをかけずに、顧客の支持が得られる1つの解決策を生み出したわけです。

 こうした投資や経費をかけられるのは、それを吸収する仕組みがあるからといえます。分かりやすくいえば、『販管費率20%を切るオペレーション体制で、資金を毎月生み出すノウハウ』を確立させているからです。

 一時期、ネット通販ではAmazonに大きく水をあけられたといわれたウォルマートですが、ローコストオペレーションから捻出した資金を人時生産性と顧客満足度の改善という2つの施策に再投資し続けた結果、2019年2月~4月期で増収、ネット通販でも大幅増を実現させています。

Amazonを活用し、販管費を下げるには?

 一方、Amazonとしても「リアル店舗で何ができるか?」といったトライ&エラーが必要なことから、今後、ライフコーポレーションとの協業は注目されるポイントといえます。

 それは、プライム会員への割引企画を店舗で提供できたり、Amazonで注文・支払い、店舗で商品をピックアップして、それを専用ロッカー受け取る仕組みであったり、日用生活品などは「定期便」で自宅に届けるといった可能性も出てくるからです。

 店舗側は来店顧客の購買データを手に入れられるので、これを品揃えに生かせれば、国内のスーパーマーケットの新しい形づくりに乗り出す大きなチャンスを得られます。

 ただし、スーパーマーケット側が現状の体制のままでは難しい状況といえるでしょう。それは単に売上げと集客をアマゾンに頼るのであれば、売上げとコストが同時に増えて利益増とならないからです。

 最悪なのは、かつて百貨店や総合スーパーが集客テナントに頼って自営売場が停滞化したように、ノウハウが手に入らず企業成長ができなくなってしまうことです。

 今後、人件費高騰は続き、どの企業でも販管費率が上がることは明確ですが、これはAmazonも例外企業ではありません。協業はもちろん大事ですが、その前に自社の高コスト構造の自主改革が何よりも必須であり、それなくしては『Amazon改革』のスピードに翻弄され、今後引き上げられる手数料アップに耐えられず、協業が不発に終わるといえます。

 製造業でいえば、原価を1円減らすために生産工程を減らし、パーツの共有化を図って、時には生産ラインを全て改修してコストの逓減化を図ります。

 チェーンストアも同じで、ゼロベースで経費予算を見直し、店舗は作業計画書で無駄がなく、人時売上高の高い店舗運営を実現していかなくてはなりません。そのためにはまず実験店舗を設定し、納品から販売完了までの工程でいかにして、時間を節約するのか。そこには、商品の移動時間、品出し時間、レジ会計時間、清掃時間など、やるべきことは山のようにありますが、結果を変えていくのに残された時間はわずかです。

 現状、どの作業にどれぐらい時間がかかっていて、それを何分にリセットすれば、全社のコストをどこまで下げられるのか。Amazonはそうした時間の積み上げで、利益を生み出すビジネスモデルをつくり上げている企業です。

 大事なのは、大手スーパーマーケットチェーンに限らず、この問題を放置すると、毎年0.7%Pずつ増える販管費率によって数年のうちに赤字化の現実がそこにきているということです。その理解を深めて改革を実行するには、人時売上高を基本とした店舗ごとの生産性に基づいた運営の仕組みを確立していくことが必須となります。

 さあ、貴社では人件費を人時換算し、「現状業務の項目別にどれぐらい時間がかかっているのか。どこを見直せば、販管費率を下げられるのか」。その準備を既にされていますか?

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