今、本部がしなくていけないことを解説!

チェーン経営で業績回復させるには、店長をどう育成する?

2019年8月28日

伊藤 稔(株)レイブンコンサルティング代表取締役

店長業務は大きく変化している

 今、チェーン各社を訪問させていただいている中で、感じるのが店長の若返り化です。40代というと、もうベテラン組です。

 私が、店長になったのは42歳の時でしたから、それから考えると皆さん優秀なのだなと思う半面、団塊ジュニアの最終世代であって、「ここで確保して育成しておかないと後の人材が少ない」「早く昇格させておかないと転職されてしまう」という思いもあるのかもしれません。

 私自身、今、不振業態の代名詞となってしまっている総合スーパーの店長に憧れて前職の会社に入社したわけですが、なかなか店長になることができませんでした。お恥ずかしながら、社内の店長試験を何回受けても受からなかったという苦い経験の持ち主です。そうした中、リストラによって店長ポストが空き、ようやく店長になることができたのです。

 もちろん、だからといって試験免除にはなりませんので、その後の試験で受かりようやく正式に店長になれらのですが、試験は店舗の事例問題で「課題が山積みの店舗をどのように道筋を立てて良い方向に導いていくのか?」を制限時間内で、論文として記すものでした。

 車の運転席に座り、ハンドルを握って運転するのと、助手席に乗ったときの感覚の違いと申しますか。実際に自分で運転すれば操作も道も覚えるものですが、助手席に座っていると、道1つ覚えようとしないものです。店長試験も同じでたった半年間、店長実務に関わった後に受けた時は、何も悩まずスラスラと解答できたことを昨日の出来事のようにハッキリと覚えています。

 店長業務とは何か? 社内にその定義すらなかったことから、こうしたことでふるいにかけるしかなかったと、後に当時の人事担当者から聞いた時には、これから会社が良くなるチャンスがあると感じました。

 そうした意味では、店長業務が決まっておらず、各店バラバラなやり方だったり、昔からの店長業務を見直されていない会社にとっては、これから伸びる大きなチャンスがあるので頑張ってください、とも申し上げています。

 理由は簡単。人口減で売上げが上がらない時代と、人口が増え続けていた時代では、店舗運営方法が全く変わってくるからです。チェーン経営というのは、商品の仕入れや経理財務、人事、開発といったことは本部の主管部門が一括して行い、店舗は売上げを上げることに専念できる効率化した仕組みのことです。言い換えれば、全て本部を中心に考え、店はその通りに動くといったやり方です。

 これが今は人口減少による売上げ減少と急激なコスト上昇が利益低迷の最大原因となり、店舗の実態を随時掌握し、生産性を引き上げるために本部は動く、といったように変わってきています。

 言い方を変えると、店長の仕事は上から下に流れてくる指示通りに店の売上げを上げて利益最大化を図ることを基本に、人の育成、商品管理、施設管理、安全管理などをすると考えられていたものが、人時売上高と顧客満足度の引き上げ実現のために、本部へリクエストをする仕事に変わるということです。

業績を上げるための環境づくりが必要

「それが分からないから苦労している」という声が聞こえてきそうですが、実はこれはそんなに難しいことではありません。店舗は調達部門ではないので投資予算はありませんが、社内の最大コストである人件費の運用を任されている責任者が店長であるということです。

 つまり、店長は自分たちで生産性の上がる取り組みを考え、実践することで、そこで生み出した改善コストを自店の設備改修や、生産性向上、顧客満足度改善に再配分でき、考え方一つで店は大きくもうかるようにできる、ということです。

「経費承認は本部が握っているので、簡単に引き出すことはムリ」という声も聞こえてきそうですが、自分の店で工夫して下げた経費を作業効率を上げるために、什器・備品・改修のコストに引き当て、人時売上高を上げたことに反対する社長はいません。そうした考えや行動を起こせる人材が、店舗の人時生産性を引き上げ、顧客利益に貢献すできるのです。

 問題は、チェーンストアでこれまで、こうした生産性を上げる実務をやってこなかったことから、「店は使えるお金がなくて、何もできない」という不満や、「どうせ承認されないに決まっている」と最初からあきらめて動こうとしない店長が増えていることです。

 当社では、こうしたことができる店長を育成する「実力店長養成講座」を随時開催していますが、仕組みの中で店長が結果を変えていく力をつけることで、もうかる店をつくれるようになっていきます。

 実際、こうした環境づくりに取り組んでいる企業は、自律的に改善ができる店長が増えています。企業として人時売上高の目標を定め、それを来期店舗目標として期末に配賦するわけですが、実務力のある店長は目標に向けて、行動計画を立てて動き、結果を変えています。そうした店長の数を増やすことが、企業の業績を変えていく力となります。

本部はどう変わるべきか?

 これからの会社は人時売上高・顧客満足度を上げる仕組みをつくっていくわけですが、これを実務で運用できる店長がいて初めて、仕組みと人材という両輪がそろって結果が変わってきます。

 この先、労働人口減で人件費の高騰は続き、販管費比率が上がっていくことは明らかです。仮に、毎年0.7%ずつ販管費率が上昇すると仮定すると、5年後には、販管費率は3.5%も上昇することとなり、現時点で経常利益率が3%の企業は赤字になります。

 その他にも、消費増税で価格に転嫁できない水光熱費や通信費、設備投資など全てが上がることが決まっています。こうしたことを考えれば、本部として毎年1割以上の経費引き下げ策を5カ年分立案し、それを実行できる店長の数を増やしておかなくてはならない、待ったなしの状態にきているといえます。

 小売業の場合、コストの9割は店舗で使っていることから、全店舗の人時売上高をいくつにするのかを、経営としてまず設定し、本部はそれを実現させていくための執行計画を立案していきます。

 経費は放っておくと、月を追うごとにどんどん垂れ流されていきます。それを食い止めるには、経営として一貫した方向性を示し、トップダウンで決断していくことが前提となります。

「店舗のリクエストに応えるための 本部に変わるのではなかったのか?」という声も聞こえてきそうですが、店舗の問題を洗い出すために、店舗からのリクエストに個別対応していてはいくら時間があっても足りません。つまり、あらかじめ本部として根本的なことを設定し、一貫した流れを作った中で、店の意見を聞きながら結果を導き出す仕組みをつくっていく方がスピード感をもって会社を変えることができ、勝ち残れるようになるのです。

 さあ、貴社では、動かない、考えない店長に対して、現状のままにしますか? それとも会社として仕組みを作り、考えながら動く実力店長を増やし、会社の結果を変えていきますか?

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