数値の厳しい今だからこそ勝ち残る最大のチャンス

チェーン企業がAmazonから学び、手にしなくてはいけないコトとは?

2019年7月29日

伊藤 稔(株)レイブンコンサルティング代表取締役

「おはようございます! 先生からAmazonの動きをよく見よと言われ、記事を集めて見ていますが、いろいろなことが見えてくるものです」と、元気にあいさつされる社長さんの顔色の良さが、このチェーン企業の業績を物語っていました。

 もちろん、ネット通販と小売りは全く違うものであり、できないことも中にはあります。特にAmazonのような、圧倒的に強いネット通販だからこそ注意しなくてはならないことがあり、そこさえ注意すれば大きく道は開けるといえます。

ネット通販に売上げ依存せず、自社の本業の立て直しを最優先せよ

 Amazonに出品するということは、Amazon会員顧客に自社の商品を宣伝するということですが、それを本業の売上げ不振策に引き当ててはいけません。言い方を換えると、「ネット通販を使ってもうける」という目的が、「ネット通販を頼る」ようになってはならないということです。

 Amazonで売れた商品を自社の店舗や物流センターから発送するにしても、その段階で既に販管費は発生しています。Amazonや他のネットスーパーにしても、そこからさらにお金を掛けて配達するという二重コストの仕組みに変わりありません。

 人件費が高騰する中、時給1500円をアルバイト採用単価に掲げているAmazonにそうした委託をすれば初回の契約は安価でも、今後傾斜コストとなって費用が上がっていくのは明らかだからです。

 この売上げが100万、200万と増え、1000万円を超えて売上げ実績が大きくなると、今後、抜け出すことができなくなります。売上げの増加に応じてコストも増えるというのは、本業の利益を棄損することになるのは誰でも分かります。

 しかし、売上げの増加に気を良くし「売上げは全てを癒す」という悪魔のささやきが聞こえ、ついつい拡大させてしてしまうものです。特に、Amazonを通じて販売をしたことがある人なら分かると思いますが、同じ商品であれば国内の全ての出品者がその競合となるため、ここに巻き込まれると残る利益はないということです。

 大事なことは単に売上げを取るということでなく、なぜAmazonがそうしたプラットフォームをつくり、高い利益を上げられたのかについて理解を深め、本業の立て直しの事業計画を作ることなのです。

小売りチェーンの常識「品切れ」をなくす

 書店で取り扱いのない本のお取り寄せシステム、アパレルショップの色や柄のサイズ切れ、スーパーマーケットの開店時の生鮮売場や夕方以降の売場。これは、最も分かりやすい品切れの一例です。

 この原因はどこにあるのか。問屋かメーカーの品切れなのか、発注担当者のミスなのか、店内のどこかにあって出されていないのか、といった追跡調査をしていくと分かるのですが、こうした改善に未着手の小売りチェーンが、特に苦戦を強いられています。

 昔は商品がなかったら代替えをお薦めしたり、予約お取り置きすることでお客さまが離れてしまうのを食い止めることもできました。しかし、これはお客さまが情報を得る手段がなかった時代だから通用した手法といえます。

 今は売場に商品がなかったら次の入荷まで「待つお客さま」はいません。商品がなければ、隣のコンビニかドラッグストアで買って帰るか、スマートフォン使い、Amazonで買物を済ませられるからです。その頻度が増えれば、その店に行く必要がなくなるのは時間の問題となります。

 自社の顧客流出を止めるには品切れ問題と対峙しなくてはならないのですが、Amazonはこの小売りチェーンが放置してきた品切れを問題として捉えて、着実に高収益を上げているといっても過言でないのです。

決済方法には成長性と拡張性はあるか?

 ネット通販は24時間、欲しい時にいつでも買え、クレジットカードが使えてレジ待ちも価格ミスもありません。一方、店舗の場合はレジでの待ち時間や支払いに手間が掛かるので、その分、店側も十分な人手を用意しておかなければなりません。

 小売りチェーンで今、問題となっているのが、少子高齢化と競合激化の影響で、1日の売上げピークの山が徐々に下がってきていることです。売上げが平準化してくるということは、その分、余計に人を持たなくてもよいわけですが、最低でも開局レジ台数分は人時を張り付けておかなくてはなりません。

 レジの人手不足や採用単価の上昇を考えると、仮に1人制レジ8台を1日フル稼働させれば10時間×8台で80人時もの人時が必要となる計算です。これを1人で8台をカバーできるフルセルフレジに切り替えれば、必要人時は10人時となり8割以上の人時改善ができることになります。

 中には「うちはレジでの接客業務を評価基準にしている」とか「ここでしか顧客との接点がないから残したい」という声も聞こえてきそうですが、レジに求められているのは、正確さと処理速度の速さです。ピーク対応できるレジ端末の台数がそろっていて、そのサポートスタッフがいればお客さまは自分のペースで会計ができるので、スタッフによるミスや会計の遅れを最小化させられます。

 今後、客数が増えても人手を増やさず、安定した顧客満足度を提供するといった成長性で考えれば、セミセルフなど中途半端なレジではなくフルセルフにすべきと断言します。

「顧客第一」から「顧客利益優先」に

 BtoCのチェーンで「顧客第一」をうたう企業は星の数ほどありますが、「顧客利益を優先にする」というテーマを掲げている企業はほとんどありません。冷静に考えてみれば分かることですが、Amazonやコストコはそうしたことをうたい、BtoBとBtoCの両面で稼いでいます。

「何がどう違うのか?」という声が聞こえてきそうですが、中小企業がビジネス用品を低価格で購入でき、経費を低く抑えたいと思うのは一般家庭の願望も変わりません。

「商品を魅力的に見せ、財布のひもを緩めませんか」とするのと、「お客さまの家庭の負担を手助けします」という視点でビジネスをするのでは、顧客の利用目的も商売の在り方も大きく変わってきます。

 例えば、スーパーマーケットなどでは、日替わり特売満載のチラシで集中的に来店を促します。ティッシュペーパーや柔軟剤などの日用品や水、米といった重くてかさばるモノは1人では持って帰る量には限界があります。今は女性の有職率が高まり、共働き世帯が増えて、それぞれが必要な分だけを買いに来ます。安いからといっても持って帰れない量は無理をして買おうとしません。

 家族の負担を助けるのというのは金銭的な部分だけではありません。定期的に使用するものは持ち帰らなくても同じ価格なら届けてもらう方がありがたいという買う立場で考えれば、Amazonの定期おトク便が支持されるのは納得がいくというものです。

薄利ビジネス体質と訣別できるか?

 他社の価格に負けたくない、販管費も下げたくないという経営者がたまにいらっしゃいますが、こうした方とお話をすると決まって「西友は大手だから価格が安くできたんじゃないか?」というご質問を受けます。

 年商1兆円に満たない企業がメーカーに価格を下げてと言って下がるほど世の中は甘くありません。メーカーは出荷段階まで血のにじむような努力をしているわけで、小売りチェーンはその購買条件から販売価格を設定するのが役目です。それを実現させてもうけを上げるには企業努力として販管費を引き下げていくことが必須で、それを解くカギが人時生産性の改善となります。

 大量にモノが売れたバブル時代には「荒利益率27%、販管費率は25%で、その差2%」という薄利でも食べていけましたが、今は人件費高騰で荒利益との逆転現象が起きつつあり、好む好まざるにかかわらず通常体制のままでは赤字という企業がここ数年で急増しています。

 まずは通常体制で利益が増やせる仕組みづくりを行い、それをやり抜くことで企業としてもうかるビジネス基盤の再構築をすることが今、必要になっています。

本気で取り組む企業の生産性のゴールは利益の永続化

 人時生産性が高いから強いのか。人時生産性を高くしようとするから強いのか。

 似たような言葉ですが、全く意味が違います。前者は周りに競合がまだ少なく売上げが取れていた時代の企業です。後者は競合が乱立する中、少ない人時で売上げを引き上げようと努力する企業です。 

 冒頭に登場したチェーン企業もそうですが、Amazonやウォルマートなどの元気な企業に共通していることは、至るところで作業の合間に改善ミーティングを行っている点です。人時生産性と顧客満足度を上げるにはどうしたらいいのか、改善ミーティングで改善実務力を付けることの大切さについて、実務を通して理解させているわけです。

 そうした企業ではお金を生む人材を増やすことで企業利益を伸ばし、それが自分たちの生きがいにつながることを共有させる活動が活発です。Amazonは創業時より、成長戦略に向け、通常体制で末永く利益が出せるようになるための先行投資を徹底的にやり続けてきました。eコマースでありながら、仕入れ、保管、物流、販売を自社で行い、倉庫やシステムのローコストオペレーション化実現へ向けて全力投資を続けています。

 計画を緻密に立て、やると決めたら躊躇せずフルスイングする。中途半端なスイングは自信喪失を招きますが、なりふり構わずフルスイングすれば、たとえうまくいかなくてもどこが悪かったかに気付き、次のチャンスにつなげられるものです。

 われわれがAmazonから学ぶべきことは「単に売上げを上げることではなく、もうけ損なわないように素早く動くということ」です。この使命を経営者自らが自覚することで、チェーン経営の劇的な変化はいつでも起こせるのです。

 さあ、数値の厳しい今だからこそ勝ち残る最大のチャンスです。輝かしい未来実現へ向けて元気に頑張りましょう。

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