今日からできる「経営者のための現場改善」

いなげやの営業利益4割減は他人事ではない

スーパーマーケット業界に広がる「大幅減益病」の原因

2020年2月17日

伊藤 稔(株)レイブンコンサルティング代表取締役

まもなく決算シーズンですが、またもや大幅減益となる企業が増えています。先般、「いなげや4月~12月営業利益39.9%減」というニュースが話題になりました。

 その要因は災害と増税で既存店低調とのことですが、どこも条件は同じなはずで、ここで重要なのは「その中で大幅減益となった本当の要因は何なのか」ということです。

 いなげやの直近3カ年の数値を見ると営業総利益率は、31.7%(2017年3月期)、32.2%(18年3月期)、32.5%(19年3月期)と引き上げているものの、同時に削減すべき販管費の比率は30.7%(17年3月期)、30.7%(18年3月期)、31.5%(19年3月期)と引き下げが追い付いていない状況。今第3四半期時点では営業総利益率31.7%、販管費率31.5%で推移をしていることから、本業の儲け度合いを示す2020年3月期(通期)の営業利益率は、昨年を下回るのはほぼ確実です。

投資回収できなければ、成長どころか現状維持も難しい

 いなげやは、首都圏を基盤に人口密度の高いエリアにいなげや136店(20年1月時点)などを展開する年商2500億円規模の中堅チェーンです。スーパーマーケット事業で直近3期(17年3月期~19年3月期)に計83店の既存店改装をし、それを今期も継続。スクラップ&ビルドや赤字店を閉鎖し、現状維持している点はよいといえます。

 問題なのは「全体の約6割の店舗に投資をしているにもかかわらず、19年3月期の営業利益率が下がっていて、今第3四半期時点ではさらにそれを下回っている」点です。

「改装したからといって売上げは上がるものじゃない」という声が聞こえてきそうですが、マスタープラン通りであるならそれはいいわけですが、「投資回収ができなければ、成長戦略のためのコストが確保できないばかりか、現状維持も難しくなる」ということです。

 かつて、大手チェーンが巨額投資で事業を多角化した末、破たんした時代でも、スーパーマーケット各社は本業の小売りに集中すれば生き残ることができました。しかし、人口減少の時代に突入し、需要は減り人件費が上昇しており、このやり方が通用しなくなってきているのです。

 実際、ここ数年で破たんした中小チェーンや地方百貨店では競合出店や人手不足、価格競争といったことがその要因といわれていますが、当然、過去にも同様のことはありました。つまり、環境が大きく変化する中、従来の延長上のやり方を続けてきたから破たんしているのです。

 冷静に考えてみれば分かることですが、売上げが4割減ってもそれに見合った販管費に下げる仕組みさえあれば、事業として成り立つわけです。そして、実際、短期間に新たな一手を打ち、再生した企業は世に数多く存在しています。

 そうした意味では、企業再生のカギは常に環境の変化を予知し、新たな事業への準備をしているかどうかということになります。

絶対に間違えてはならない脱・高コスト化のやり方手順

 店舗型ビジネスが低迷する中、最もコストがかかっている店舗に着目し、利益創出のために(売上げ以上に)そのオペレーションコストに注目するのは、経営者であれば当然のことと言えます。

 前出のいなげやも30%台という超がつくぐらい販管費率が高いことが問題であり、過去5期を見ても、この比率は一度も30%を切っていません(むしろ15年3月期の30.5%から19年3月期は31.5%まで上昇し悪化傾向をたどっています)。

 今までは、家賃が高くても売れる場所に出店すれば安定収入が見込めたことから、薄利でも回せたのがスーパーマーケット事業。しかし、高齢化と人口減によって下がる売上げと、上がる経費によって引き起こされる「営業利益率1%未満時代」はスーパーマーケット業界の危機的状況の始まりといえます。

 いなげやでは過去3期に、商品開発やプロセスセンターへの投資は行われたものの、取引先絡みの取り組みには限界があります。本来であれば、商品開発やプロセスセンターの稼働、店舗改装を行う前に、既存店舗の生産性を上げる取り組みを優先させなくては、「無駄な二重投資」になる可能性があるのです。

環境変化に対応できる構造改革こそが再生の鍵

 既存店の生産性を上げるには、各店の使われ方の変化に応じた「少ない人員で回す仕組みと人材の育成」が必須となります。

 例えば、店舗の人員体制を見れば、午前中に偏った人員が配置されているなども一目瞭然で分かります。これは、20年以上も前の雇用契約がベースになっていて、それに対して欠員補充が繰り返されていると起こることです。

 団塊世代の定年退職、高齢化により、日中に時間のある高齢者が増え、1日に何度も来店くださるようになったり、有職主婦の増加とともに「夕方のショートタイムショッピング客」が増えたりと、店舗の使われ方が大きく変わってきていることにお気付きでしょうか?

 かつて、昼のピークタイムに間に合うように品出しすればよかった時代とは大きく流れが変わっています。今は終日、店舗コンディションが良くないと使えない店というレッテルを張られますし、台風などの災害対応がきちんとできる体制も求められます(今の生活者は災害情報に過剰に反応します)。

 これまでのような「売上げのピークに合わせ、大量の人と金をかけて事業をする高コスト運営」は誰でもできますが、これからはこれを「売上げのボトムに合わせ、必要に応じて人時を投入する低コスト型店舗運営」に切り替えていかなくては生き残れない時代になっています。既にこうした取り組みをしているチェーンでは業務量を減らし、業務の簡素化を進めることで、人時生産性を毎年更新し続けています。

やり方が分からない? 過去の延長上でやることのリスク

『業務改革戦略』とは販促強化のような一過性のものではなく、常に継続して上昇のスパイラルを構築していくことが大前提となるものです。

 例えば、店舗の業務改革戦略では業務項目の棚卸しといった実態調査と非効率業務の洗い出し、作業指示書の策定、人時割レイバースケジュールへの移行といったプロセスで、結果を引き出していくこととなります。

 多くの企業で生産性が上がらない理由の一つに、売場展開や販促強化、新規商品といった売上向上策にだけに目が向き、そこにかかる手数やコストを無視し商売をしてきたことがあります。売上維持のためならコストはいくらかけてもという人件費が安かった時代の名残から、日本国内には販管費率25~30%超という超高コストのチェーンが無数にあります。

――どうしてそういう状況になったと思いますか? とお聞きすると

「なぜ利益が出ないのか? どうすればいいのかやり方が分からないんですよ」と、社長としては実に言いにくい答えが返ってきます。

 実はこの言いにくい「答え」がとても重要なのです。それは過去の延長上でいけば利益どころか危機に直面することに気付き、未知の「人時売上げ」に触れて結果を変えるきっかけをつかむことが、復活の第一歩になるからです。

 実際にお手伝いをさせていただいている企業にも、全くのゼロから出発され、社長ご自身があまりに夢中になって取り組まれることから周囲が付いてこざるを得なくなり、取り組みはコンサルティングの回数を追うことに盛り上がり、気付けば人時売上高が2ケタ改善していたというウソのような本当の話が起こっています(社長さんご自身は意識されなくても、私から見ると、1年前とは「別人」と思うくらい変わり、それが会社の業績を変えているのは紛れもない事実です)。

 詳しくはセミナーでお伝えしておりますが、まずはこうした『店舗構造改革』に着手していくことで、大きく利益構造を変えることが大切です。

 さあ、来期へ向け、まだ人口増時代のやり方を続けますか? それとも環境の変化に対応した戦略で進化しますか?

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