「今年は、頑張って新入社員を採用したのですが、ここにきてそれが重荷となっています。人時売上高による人件費管理を始める上での注意することは、ありますでしょうか?」

 とあるチェーンの人事部長からのご相談です

 7月、8月は猛暑で、売上げは上がったのですが、9月以降、それ以前の売上低迷状況に戻りました。パート・アルバイトの新規採用分も過剰気味で、その対応に追われているとのこと。

「今年の人件費収束計画は何か立てておられますか?」とお聞きすると

「うーん!」と言葉に詰まります。

 人事部の立場として、「毎年、なぜ新卒が採れないのか?」と言われていたため、とにかく今年は頑張って採用してきたそうです。

採用人員を決める前にすべきことがある!

 そもそも、新入社員をパート・アルバイトの欠員補充として採用すれば、人件費の単価は上がります。そうはいっても背に腹は代えられない事情も分かりますので、その際は、コスト吸収策も併せて準備しておかなくてはなりません。

 人時売上高を使っているチェーンでは、店舗の総人時と人時売上高、それに目指す目標値はどのくらいなのかというところから、採用すべき人員を決めていきますが、先のチェーンのように、例年通りの採用を続ければ、コストは上がる一方です。

 特に、4月採用の結果が顕著に出るのは、一番売上げの低い9月です。本来は、その時期を見据え、人件費も低く抑えなくてはならないのですが、ここで人件費を超過させてしまうと、年度の見込みが大きく変わってきます。

やってませんか?「売上げ対策の日替わりチラシ」

 なまじ、人時売上高をかじっている企業ほど、「コストが上がったら、その分を売上げで取り返せば何とかなると考える」企業が、中にはあるのですが、これをやってしまうとメチャクチャなことになります。

 よくあるのが、売上げの低い9~10月の売上底上げ策と称して、新規に日替わり販促チラシを打ったりするパターンです。これによって「短期的な売上げはとれても、月次で人時生産性が上がることはありません」と私はキッパリ申し上げています。

 理由は簡単で、人口減少でパイが減れば、販促強化で無理に売上げを上げても、その反動と、販促強化に要した人時によって、コストが上昇するからです。

 企業によって考え方があるので、とやかく言うつもりはありませんが、コントロールできる人件費には手を付けずに、コントロールしようのない売上げアップにお金をかけ、販管費と荒利のダブルのコスト負担を被っていることに気付かなければ、大変なことになります。

固定給与を払っているから「タダ」が間違い

『何か新しいことをやる=改善している』ふうに思われがちですが、新しいことをやるのはタダではなく、全てに「人件費」がかかっているということです。

 社員だから固定給与を払っているのだから、どう使おうと「タダ」という認識がどこかにあるからなのかもしれませんが、そうであれば、人時生産性は上げることはできないと言えます。

 こうなってしまうのには、いくつか要因があるのですが、よくあるのが、出勤シフト表を作業指示書と勘違いして使っていることがあります。

 出勤シフト表は人の名前があって勤務時間があって、どことなく作業指示書と似ているのですが、似て非なるものであり、単なる勤怠を確認するツールにすぎません。

 出勤シフト表は、人に対して、仕事を配分していきます。そのため、チラシの売り出しなどの繁忙日は、人員不足だと回らなくなることを想定し、多めに人を抱えてしておくことになります。

 また、出勤シフト表では、個人と各作業がどう関係しているのか、ひも付けされていないため、ムリ・ムダの原因を特定することができません。

 つまり、多めに人を抱えていても、事実上、何もコントロールができないので、適切な作業指示を出すツールにならないのです。

 適当に人時を使い始めると、こうしたトンチンカンなことを正しいと思って、無駄なことをやり続けてしまう、そうした企業も中にはあるのです。

1日数時間の差異が年間では大きな差に!

 一方、人時の運用手順やルールを理解しているチェーンでは、何によって人時が変わってくるのか、失敗しないためにどういう点に注意をすべきかが分かっているため、ムダを最小に抑え、利益の最大化を図ることができます。

 こうしたチェーンでは、作業に人時を割り当て運用していくものとして作業指示書を活用しています。

 詳細はセミナーでお伝えしていますが、店舗の日々の作業は、商品入荷量や客数よって、人時の割り当ては変わってきます。人員の過不足も誤差のうちといった、1日数時間の差異も、年間ともなれば、数十万~数百万円の差となり、その店舗数分だけ企業の損失となってしまうのです。

 少子高齢化、人口減少が加速すると、思うように売上げが上がらず、人時だけが増大し、人時生産性が下がる局面が多くなっていきます。

 こうした変化にいち早く気付き、業務改革に取り組まれ、今までのやり方を180度変換することで、人時生産性を改善している企業が続々と増えています。

 貴社におかれましては、まだ、勤務シフト表による旧態依然のやり方を続けますか? それとも、人時割り作業指示書で、利益の最大化を目指しますか?

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