【経営者のための現場改善】

「売れる企画・商品」を欲しがる企業の生産性は悪化

会社の売上げを上げるには業務の仕組みを「根底」から変える!

2019年11月22日

伊藤 稔(株)レイブンコンサルティング代表取締役

「コスト改善はやっています。売上げを上げたいです……。」と、T社の社長さんからのご相談がありました。

 話をお聞きすると、ここ数年は減収で、それをコストカットでなんとかやりくりして、今期はさらに、在庫とロスの削減も課題に掲げておられるとのこと。

その取り組みの方向性は間違っていませんか?

 社長曰く、「ポイント割引、カテゴリー割引、クーポン割引……。なんでもやりました」と言われるのですが、売上げ増に結び付いていない。まずは、「この実態をちゃんと掌握することです」と申し上げました。

 T社も、決して手を抜いたわけでないのに、売上げが下がり続けるということは、これまでやってきたことが通用しなくなってもやめられない。この悪循環から抜け出すには何からすればいいのかが、整理できていないという実にもったいない企業です。

 割引企画で大量にチラシをまき、広域から集客して売上げが上がっても、それは一時的なものです。締めてみれば、販管費は増えて儲からない上に、売上げが未達となれば、本当に笑えない状況となります。

「そうはいっても他に手がないし……。」という声が聞こえてきそうですが、何かを企てて利を得るためには、明確な目標設定と、それを実現していくための代償が必要になってきます。

 多くの場合この目標が、月間の売上げなのですが、本当にそれが増益につながっているのか、誰も分からないまま進んでいるといえます。

 本来ならば、個別企画ごとの収益計画と結果を出して、それが月間収支にどう影響したのかを月中で把握しなくてはいけません。ところが「チラシコストは宣伝部が持ち、商品粗利は商品部が動かし、その準備にかかる店の人件費もあるため、企画毎の収支など出せない」という声が聞こえてきても、誰も出そうとはしないのです。チラシも荒利も帳票があるので足せば分かります。

 さらに、作業にかかった時間も計測すれば人件費も分かります。これからは、企業として「店の業務量を把握する仕組み」が必要になります。

 簡単な話、その部分だけを切り出して、取り組んだ企画の「赤字」「黒字」が分かれば、企画の是非は誰の目にも明らかということになります。その実態把握する仕組みを持たずに「売上げアップ策」「売れる企画」「コスト削減以外」ということを探し回っても、利益を出すことはできないということです。

 確かに人口増の時代は、多少粗利が下がっても、全体売上げが上がればカバーすることもできました。ところがここ数年は、人件費を中心としたコストアップが、全ての原価を引き上げています。すべてのコストが積算された小売り段階で、今までのどんぶり勘定のままでやろうとすること自体に無理があるのです。

大事なことは単に人を店に投入することではない

 こういった細部までの点検で、その根底にある構造部分から変えていかなくては、売れる商品の仕入れや開発をしても、危険な状態を招くことになります。

「それを分かった上で、売れる企画や商品が知りたい」という声が聞こえてきそうですが、「売上げを上げる」ためには、そこでしか扱っていないものを増やすか、同一商品であれば、価値のある売り方をするかのいずれになります。

 そこでしか扱っていないものといえば、プライベートブランド(PB)ですが、開発・販売コストが必要になります。一方、同一商品であれば、価格引き下げコストが必要となってきます。

「こういったことにかかる全ての経費を、営業収益から生み出す仕組みありますか」とお聞きすると、皆さん「う~ん」と言葉に詰ります。

 批判を恐れず申し上げるとすれば、「売上げを上げる策が欲しい」という経営者ほど、こういった数値を全く気にせずに減益が続いても平気であるということです。

 商品開発にしても、バイヤーが片手間でメーカーにPBを要請してできるようなものは、どこにでもあるナショナルブランド(NB)と何ら変わりありません。独自の強みを出した商品を作るのであれば、専門組織が必要であり、最低年間3~5千万の人件費は必要です。

 そこには、原材料費コストや業務委託費は含まれていません。そして、商品が出来上がり、それを売っていくための販促費や廃棄ロスなどを含めると年間数億の資金が必要になってきます。

 一方、同一商品であれば、価格の安さはもちろんですが、決済方法の便利さ、清潔さ、品切れがないといったことが、どの競合店よりも優れていて、より価値の高い提供ができる投資を行っていくことが必要になります。

 大事なことは、単に人を投入するということではなく、本当に必要な主管部門に人を投入し、店舗はできるだけ少ない人員でやるということです。不必要な所に人が多ければ、「従業員の人件費も価格に乗っている」と顧客はすぐに見抜くからです。言い換えれば、お客さまは、生産性の高い企業で買い物をすることに高い価値観、満足感を得るということです。

 企業が、「コスト改善をやっています」と言うからには、最低限このくらいの資金をコスト改善で毎年生み出さなくてはいけません。爪に火を点すようなものでは、コスト改善を行ったということにはならないのです。

改良を重ねる「改革」が古くなることはない!

 というのも、「売れる商品」「売れる企画」を手に入れるためには、このような資金作りの戦略がなければ、コストは膨れて、利益は悪化します。その証拠に、現状の同じやり方を繰り返している企業は、悪化の一途をたどっています。コストゼロのままでは、それを売りこなせないことは、火を見るよりも明らかです。

 一方で、こういったことを着手されている企業では、売上げが上がらないことを克服するには何が必要なのかということに真剣に向き合っています。かつて聴覚の不自由な人が補聴器を考えだし、目の不自由な人が眼鏡を考え、暗い場所で作業ができるよう電気が発明されたように、売上げを上げるために何が障害となるのか、そのことについて真剣に向き合う姿勢こそが重要なのです。

 新商品導入も既存店活性化策も同じで、立ち上げの際には、必ず黒字化に至る道を描くことから着手します。

 改革プロジェクトでは、実際に人時を効果的に使いこなすことで、成熟した商圏の既存店でも増益を実現しています。そして、その利益で新しい取り組みを始め、増益のスパイラルを作り上げています。この黒字化の道を描くことで、新企画、新商品は利益をもたらすことになります。

 どんなに技術革新が進み、新しい商品や新しい決済方法が出てきても、常に改良を重ねる「改革」が古くなることはないのです。大事なことは、他社より早く失敗から学び、成長すること。それなくして企業成長はありえないのです。

 さあ 貴社では、まだ「売れる企画」「売れる商品」だけを望みますか?それとも、売れていく過程の根本から考え、自社で作り上げる手法を再現できるようにしますか?

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